どうせ神さまだけが知ってる
「涙、ふいて、せんぱい」
ハヅキの細くて白い、けれども骨ばった男の子の手が、私の頬にそっと触れた。そして、親指でそっとやさしく涙の粒をぬぐいとる。
「……こんなふうに、誰かに感情を分け合ったのは初めてだ」
そんなことを言って、滅多に笑わないハヅキが、やさしく微笑んだ。
わたしは唇を結んで、ぐっとあふれるものをこらえる。これ以上ハヅキを困らせちゃいけない。
微笑むハヅキから目をそらして、花火の方へと向き直る。大きな手持ち花火は終わってしまったのだろうか、我慢比べをするようにみんながしゃがんで線香花火を手にしていた。
チカチカと光るたくさんの光が、あまりにきれいでこわくなる。
次第に消えていくそれらを見ながら、ゆっくりと息を吐く。もう泣かない。
「負けたくないな、わたし」
「え?」
「美大祭。……ハヅキには、負けたくない」
横でハヅキがふっと笑った気がした。けれど顔は見ないでおく。今はあの線香花火の最後のひとつがきえるまで、目を離したくない。
「せんぱいのそういうところに、救われてる」
すきとかきらいとか、愛とか恋とか。
そんなのこの際どうだっていいよ。きみが描く絵に涙が出た、ただそれだけ。
けれどその事実がどうしようもなく、大切で、大事で、仕方ない。
浅井葉月、きみはわたしの北斗七星かもしれない。