どうせ神さまだけが知ってる
ハヅキを見ると、いつもほとんど動じないハヅキの瞳がゆらゆらと揺れている。
同時に、向こうでヒュン、と音が鳴る。
ミナミたちが花火を始めたのだろう。ここへやってくる前の買い出しで、安くなった手持ち花火や打ち上げ花火を買い込んでいたから。
視界の向こうでチカチカとひかるそれはなんだか幻想的で、さっき描いたわたしのキャンプファイヤーなんかよりもずっとずっときれいだと思った。
「……ありがとう、イズミせんぱい」
何が〝ありがとう〟なの。
「僕も、この絵を描いているとき、いつも苦しい。でも描かないと忘れてしまいそうになるんだ、自分が色を重ねていい人間なんかじゃないって」
「色……」
「戒めみたいなものなんだ、これは」
独特の色彩センスで抽象画を描いていた浅井葉月が、入学してから一切色を使った作品を提出していない理由がここにあった。
この間、食堂の裏で見つけた途中掛けのキャンバスを思い出す。
渦巻く青色のなかに、泡のようなものがぽつぽつと浮かんでいる抽象画。タッチも色合いも統一されていない、『迷い』が前面に出た絵だった。
どうしてあの絵をハヅキが描いたものだと思ったのか、自分でもわからなかったけれど。
――色を使うことに〝迷い〟を持ってる。
きっとそんなハヅキの感情が、現れていたんだろう。