溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~
「萌のこと、俺が説明しようか?」
許嫁がどんな女性なのか、興味がないと言ったら嘘になる。でもそれを知ったところで、彼女が専務の許嫁であるという事実は変わらない。
彼が目の前からいなくなり、混乱していた心が落ち着きを取り戻し始めると、ある決意が固まる。
「ううん。説明はいらない」
首を左右に振って断ると、広海さんの口角が上がった。
「そうだよな。やっぱ兄貴とふたりできちんと話し合ったほうがいいよな」
初めこそ専務に食ってかかったものの、今では私たちの仲を心配してくれる広海さんの姿を見たら、胸がチクリと痛み出した。けれど一度決めた思いは簡単には揺るがない。
「そうじゃなくて……。私、ここを出て行くことにしたから」
専務が許嫁の存在を認めた今が丁度いい。
ソファから立ち上がり、荷物をまとめるためにゲストルームに向かった。
「は? なに言ってんの?」
「……」
私を追ってくる広海さんの戸惑った声を聞いても足は止めない。
ゲストルームのドアをパタンと開けると、ウォークインクローゼットに入る。
お給料とボーナス、そして家事手当が振り込まれた銀行口座には、引っ越し資金と新しい部屋の家賃や初期費用を払えるだけのお金が貯まった。