溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~
『ぶっちゃけたら、案外スッキリするかもしれないぞ』と、明るく言われても、忙しい彼を引き留めるつもりはないし、結婚詐欺の被害に遭った過去を打ち明けて、余計な気を遣わせるのは申し訳ない。
「フラれたんです。盛大に」
決して嘘ではない言葉を口にすると、彼が瞳を伏せた。
「そうか。それはつらかったな」
「はい」
「月並みな言葉になるが、時間が解決してくれると思う」
「そうですね」
慰めてくれる彼の優しい言葉を聞いたら、傷ついた心がほんの少しだけ癒えたような気がした。
「これもなにかの縁だ。なにか困ったことがあったら連絡してくれ」
彼がジャケットの内ポケットから名刺を取り出す。
「最後に、キミの名前を教えてくれないか?」
「……菜々子です」
「そうか。かわいい名前だ」
そう言い残した彼が、寝室から出て行った。
自分の名を明かすことに一瞬ためらったけれど、この先私が彼の姿を見かけることはあっても、彼が私に気づくことはないだろう。
そして、私が彼に頼ることも今後絶対にない……。
ベッドから起き上がると、彼から受け取った名刺をクシャッと丸めてゴミ箱に投げ入れた。