溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~
「さて、なにを手伝ったらいいかな?」
ジャケットを脱いでシャツの袖をまくる彼に、変わった様子は見られない。ひとりで彼を意識してしまったことを恥ずかしく思いつつキッチンに移動した。
「じゃあ、卵を割ってもらってもいいですか?」
冷蔵庫から卵を取り出す。
「卵か……。いきなり難易度が高いな……」
「そうですか?」
「ああ……」
これから鶏肉をこんがりと焼いてチキンソテーを、副菜には厚焼き玉子ときゅうりとワカメの酢の物を、そして小松菜やナスや人参など中途半端に残っていた野菜をすべて使って味噌汁を作るつもりでいる。
でも家事が苦手な彼にフライパンや包丁を持たせるのは危険だと思い、卵を割ってもらおうとしたのに……。
「大丈夫ですよ。黄身が崩れても味は変わりませんから」
「……そうか?」
「はい」
張り切って腕まくりをしていたのに、急に弱気になった彼をおもしろく思いながら卵を差し出す。
「じゃあ、いくぞ」
「はい。どうぞ」
大きな手で卵を持った彼が、ボウルの縁でそれをコツンと叩く。すると「グシャッ」という残念な音を立てて崩れた卵がキッチンの天板の上に広がった。
「あ……」
有能なイメージがある彼と一緒にキッチンに立つのは思いのほか楽しくて、崩れてしまった卵を見てフフッと笑った。