溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~
「おかえりなさいませ」
「ただいま」
エントランスに横づけされた社用車から降りた専務を出迎える。
今の時刻は午後十二時五十五分。一時から始まる経営戦略会議まであと五分しかない。よつば銀行頭取との会談が予定より長引き、帰社時間が大幅に遅くなってしまったのだ。
社内に向かって慌ただしく足を進める。足の長い彼らのスピードに追いつくには小走りするしかなくて、パンプスのヒールをコツコツと鳴らして必死について行った。ほどなくしてエレベーターホールに辿り着く。
先にエレベーターに乗り込こんでドアに手を添える広海さんに頭を下げて中に入ると、専務がクスクスッと笑い出した。
「雨宮さん。急かしてしまって悪かったね」
はるか前を歩いていたにもかかわらず、私が息を切らして小走りしていたことに気づいていたなんて……。
「いいえ。あ、専務。経営戦略会議の資料です」
鋭い観察力に驚きながら用意していた資料を差し出すと、受け取ろうとした彼の指が私の小指にふわりと触れた。
「ありがとう」
意図せずに指が触れてしまうのはよくあること。それなのになぜか鼓動がトクンと脈を打つ。
中学生のように胸を高ぶらせて彼を意識してしまったことが恥ずかしくてうつむくと、エレベーターが七階に止まった。
第一会議室に向かう専務を見送るために、一度エレベーターから降りる。
「いってらっしゃいませ」