溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~
翌日の午前、職場で忙しく業務をこなしているとスマホがブルブルと震えた。
【ごめん。仕事が忙しくて銀行に行けそうにない】
今日、仕事でお台場に行くついでに銀行に寄ってお金を下ろし、結婚式の代金を支払ってくると言っていた彼からメッセージが届く。
少しでも彼の負担を軽くしたかった私は【わかった。費用は私が用意しておくから安心して】と返信した。
その日の昼休み、銀行で下ろした五百万円が入ったバッグを胸に抱えて待ち合わせ場所に急ぐ。
「菜々子!」
私を呼ぶ声を聞いて振り返ると、ビジネスバッグを手にした彼がこちらに向かって走ってくる姿が見えた。
「実さん、これ使って」
バッグから現金が入った封筒を取り出し差し出す。
「ごめん。菜々子にこんな大金を用意させて……」
私が差し出した封筒を受け取った彼の眉間にシワが寄った。
「ううん。気にしないで」
私に結婚資金を用意させてしまったことに負い目を感じている彼を元気づけたくて、わざと明るい声をかけた。すると彼が、私との距離を縮める。
「ありがとう。菜々子、愛してるよ」
彼の唇が、頬に短く触れる。
大勢の人が行き交う場所で人目もはばからず愛をささやかれ、くちづけを落とされるのは恥ずかしいけれどうれしい。
「わ、私も……」
彼の唇が触れた頬が熱く火照るなか、自分の思いをたどたどしく伝えた。けれど残念ながら、愛をたしかめ合った甘い余韻に浸っている時間はない。
「菜々子。そろそろ行かなくちゃ」
「うん。気をつけてね」
これから仕事でお台場に行く彼に手を振った。