可愛い女性の作られ方
あ、結婚しようと決めてからもうすぐ自分も加久田になるんだからと、名前で呼ぶように矯正されている。

「お土産、アルファリアのワッフルで、ほんとによかったのか?」

「大丈夫ですよ、うちの両親も目がないですから、ここのワッフル」
 
不安な気持ちのまま、駅を出て手を繋いでふたりで歩く。

『こんなおばさんにうちの息子は渡せません』

なんてことをいわれたらどうしよう?
不安で不安で落ち着かない。

「大丈夫ですから。
いつも通り、堂々としててください」

「……うん」

――ピンポーン

「はーい」

「ただいまー」

「あ、えっと、お邪魔します」
 
貴尋がドアを開けると、お母さんらしき人が出てきた。
私を見ると、ちょっと驚いた顔をしていた。

……うん。
息子が年上の女性を連れてきたんだもん。
驚きだよね。

「あの、これ、よろしかったら……」

「まあどうも」
 
お義母さんの対応はどうも、素っ気ない。
促されて貴尋と並んでソファーに座ると、お義父さんは読んでいた新聞を畳んだ。
お茶が出てくると、貴尋が口を開いた。

「紹介するね。
会社の上司の、篠崎優里さん」

「……篠崎です。
初めまして」

「会社の上司の方が、何のご用ですか?」
 
……ううっ。
お義母さんの視線が冷たい。
言葉に棘がある。
きっと、針の筵ってこんなんだと思う。

「俺、篠崎さん……優里と結婚しようと思ってる」

「……失礼ですけど。
篠崎さんはお幾つですか?」

間髪入れずにお母さんが訊いてくる。
お父さんはお茶を飲みながら、静観している感じだ。

「……三十三になります」

「うちの貴尋の年はご存じで?」

「……二十六歳、です」

「七つも年下の男を誑かして結婚だなんて、なに考えてるんですか?」

きっと、いわれるだろうとは思っていた。
でも、実際に聞くとダメージは結構大きい。

「母さん!
なにいってるんだよ?
俺の方が優里に惚れたんだよ」

「あなたは黙ってなさい。
たとえ、貴尋の方からいってきたとしても年上のあなたが、節操もって接するべきでしょう?」

「……そうですね」
 
……だめだ。
鼻の奥がじんじんしてきた。
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