可愛い女性の作られ方

出るな、涙。
泣くな、私。
こんなこといわれることくらい、わかっていたじゃないか。

「結婚なんて認めませんから。
貴尋はあたまを冷やしなさい」

「なにいってるんだよ、母さん！？
俺、絶対優里と結婚するからな！」

「……いいの。
貴尋、いいの。
仕方、ないの」
　
……あーあ。
いい夢、見させてもらったなー。
これでもう、貴尋とは別れないと。

「優里、なにいってるんですか！？
いい訳ないでしょう！？」

これ以上ないくらい、貴尋は怒り狂っている。
それだけ怒ってくれるのは嬉しい。
でも、恋愛ならいいけど、結婚だとそういうわけにはいかない。

「いいから。
もう、いいから。
ありがとう、貴尋」

「優里、優里、どうしちゃったんですか？
もう諦めるんですか？
いつものあなたらしくない！」

「……お願いだから、もうこれ以上、
私になにもいわせないで……！」
　
涙が落ちそうで限界だった。
これ以上口を開けば、お義母さんに醜い言葉を吐き出してしまいそうだった。
それに、未練たらたらの私の言葉を、貴尋に聞かせるのは嫌だった。

「……篠崎さんは、ほんとにこれでいいんですか？」

「……え？」

いままで、ずっと黙って私たちの会話を聞いていたお義父さんが、不意に口を開いた。

「あなたは、ほんとにこれでいいんですか？」

「……いい訳ないです」
　
真剣に私を見つめる、お義父さんの視線。
私はつい、本音を吐き出していた。

「貴尋さんが好きです。愛してます。
ずっと一緒にいるって、約束しました。
私にとって、初めてといっていいくらい、一緒にいて安心できる人です。
大事です。凄く、凄く大事です。
でも、大事だから……」

「……大事なら、奪っていきなさい」
　
ふっと、お義父さんが遠い目をした。

「大事なものは、手放してはいけません。
きっと、後悔します。
それに私は、貴尋とあなたの結婚に、決して反対ではありません」

「あなた、なにいってるの？」

「父さん、どういう……？」
　
お義母さんは不満げにお義父さんを見ている。
私だって、突然のことに驚いている。貴尋も。

「妻は、私から説得します。
あとのことは任せて、今日のところはお引き取りください」

「あ、え、はい。
……ありがとうございました。
よろしくお願いいたします」

「貴尋。
後で連絡するから」

「あ、……うん。わかった」