この空の下
10日後。
鈍い下腹部痛で目を覚ました。

痛い。
確かに痛い。
時間を計ると10分間隔。

まだ大丈夫。

ゆっくり起き上がって荷物をまとめ、着替えをする。
そうだ、朝食どうしよう。
まだ時間があるからお味噌汁だけでも作ろうかな。


「あれ、羽蘭早いね」
隆哉も起きてきた。

「うん。陣痛が来たみたい」

「えっ、本当?」
「たぶん」

ウロウロと部屋の中を歩き出す隆哉。

「えっと、着替えは・・・携帯は・・・羽蘭、優子さんに電話した?」

1人でテンパってる。

「まだ10分間隔だから」

「で、羽蘭は何やってるの?」
「朝ご飯にお味噌汁を作ろうと思って」
「はあ?そんなことより病院でしょう」
「だ・か・ら、まだ早いって。外来が始まる頃に行けば十分よ」

初産なんてそう簡単には生まれないんだから。
順調にいって、生まれるのは夕方くらい。


「ねえ、荷物はこれだけ?」
すでに着替えを終えた隆哉。

手に持っていたお玉とお味噌を奪われて、私は腕を引かれた。

「ほら、行くよ。病院には車の中から電話するから」

いやいや、
「ちょっと待って。まだ生まれないから。初産なんだから時間がかかるの。隆哉も仕事に行ってちょうだい。忙しいんでしょ?仕事が終わって来てくれればちょうどいい頃のはずだから」
まるで何人も産んだ経産婦のような発言をしてしまった。

「嫌だよ。何で羽蘭はそうお気楽なんだ。命が生まれるんだぞ。大変なことなんだ。何が起きるか分からない。まず病院に行って診てもらおう。じゃないと心配なんだよ」
なぜか私が怒られた。

「はいはい。わかりました」
隆哉の剣幕に私は頷くしかなかった。


しかしその時、

「あ、ああぁ」
私はその場にしゃがみ込んだ。

「どうしたの?」
隆哉が駆け寄る。

「破水したみたい」
内股を水が流れて落ちる。

「救急車を呼ぶ?」

「いいから、クリニックに電話をして車まで連れて行って」
「分かった」
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