【極上旦那様シリーズ】俺のそばにいろよ～御曹司と溺甘な政略結婚～
「お嬢ちゃん、ひとりでフラフラしていたら危ないじゃないか」

　日本語だった。

　フランス人とたがわない流暢な言葉だったから、日本人だとわからなかった。
　
　いきなり説教されて、私はムッとなる。

「クソ男には笑いがこみ上げてきたよ。かわいい顔して口が悪いんだな」
「ほっといてくれればよかったんです！　自分で対処できました。それにフラフラしているわけじゃないですから」

　とげとげしい表情できっぱり言うと、彼は片方の眉を上げて楽しそうに口元を緩ませる。

「たしかに。フランス語がわからないフリをしてやり過ごそうと思ったんだろうが、もう少しで殴られていた」
「たとえ殴られていたとしても、部屋になんてついていきませんからっ！」

　本来なら助けてくれたお礼を言わなければならないのに、男性が楽しそうなのがなんだか癪に障り、強く言い返す。

　言い切った私はツンと澄まして歩き出した。

　私が困っているってわかっていたなら、もっと早く助けてくれればよかったのに！

　腹立たしく思いながら、足早にオルセー美術館へ向かった。
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