対立相手が婚約者。それって何かの冗談ですか?
11.赤ワイン
少し離れたテーブルで食事をとっている3人の女性。それぞれ、赤と黄色と青のワンピースに身を包み、大ぶりのネックレスやピアスを揺らしている。

「あちらのテーブルにいらっしゃるの、拡樹さんよね?あの宮園泰造の三男の。
同じテーブルにいるのは…、誰?あの女」

「見たことないわね。まさか、婚約の噂は本当だったなんてこと…」

「テーブルマナーもまともに扱えそうにない方よ。拡樹さんにふさわしくないわ。
ありえないわよ」

口々に言いたい放題話しているのは、それぞれ日本を代表する社長の娘で、由緒正しき家柄の令嬢たち。

女子会と称して出会いを求めてクルージングに参加していたのだが、そこで拡樹を発見した。

今までパーティーに顔を見せてもすぐに1人でどこかへ姿を消してしまっていた拡樹。そんな彼は彼女たちにとって、近づきたくても近づけない相手であった。

出会いを求めて乗り込んだ船で奇跡の再会が果たせたというのに、横には見知らぬ女を連れているだから、彼女たちの嫉妬の炎は燃え上がっていた。

フォークを強く握り、皿の上に置かれた最高級のビーフに突き刺すと、じゅわりと肉汁が溢れる。

「許せないわ」

拡樹が地位の低い女と一緒にいるなど、それだけで許せない。それに加えて、婚約の噂が本当だとするなら、自分たちの手で婚約破棄に追いやってやるという気迫に満ちていた。
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