対立相手が婚約者。それって何かの冗談ですか?
3人は、移動した拡樹と恵巳の後をつける。

辿り着いたのはダンスフロア。広々としたフロアでは、男女が手を取り合い、生演奏に合わせて好きなように体を揺らしている。

「まさかあの女、拡樹さんと踊るつもり?」

「触れるなんて…、イヤー」

拡樹が手を出し、恵巳が戸惑いながらもその手を取ったところで、小さく悲鳴があがった。
そんな悲鳴は音楽にかき消され、2人の耳に届くことはなかったが、不穏な空気はどんどん濃くなっていく。

曲が途切れたタイミングで、2人が体を離すと、とある男性が拡樹に声をかけた。拡樹の顔見知りらしく、楽しそうに会話を続けている。

その様子を見た3人は、この機会を逃すまいと、我先に拡樹の方へ寄っていく。

だが、その言葉は彼女たちに心の準備を与える間もなく放たれた。
当然のように、少しの躊躇いもなく、拡樹の口から。

「あぁ、彼女は僕の婚約者です」

噂が噂ではなくなった瞬間だった。
賑やかなダンスフロアで、3人の顔から笑顔が消えた。

恵巳が小さく頭を下げて挨拶をしていると、すぐ傍で足を躓かせた女性のキャッという短い声があがった。それと同時に、その場に真っ赤なワインが飛び散り、恵巳の来ていた白のワンピースが真っ赤に染まる。

「私ったら、なんてことを…」

グラスを持っていた女性は、慌てた素振りで恵巳の前に立ち、わざとらしく声をかけた。
< 101 / 157 >

この作品をシェア

pagetop