対立相手が婚約者。それって何かの冗談ですか?
15.復活と空虚感
季節は冬を迎え、寒さの真っただ中にあった。交流館の木々にも雪が積もり、真っ白な景色が来館する人々を出迎える。館内の奥にある和歌の前には、大きな人だかりができていた。こんなに賑わっている交流館を見るのは生まれて初めてだった。

1つの歌の前で語り合う2人の女子高生。そんなやりとりを聞いて、恵巳は深く、何度も頷いた。

「この歌よくない?

月明かりを見ると、あなたのことを思い出します。あなたもこの空を見上げているのでしょうか。少しでもあなたと同じ景色を感じられていると思うだけで、私はもう十分なのです。会いたいとまでは言わないので、どうかこの月明かりを雲が遮ることがありませんように。

気持ちめっちゃわかるわー。おんなじ景色見られるってだけでいいんだよね!」

「たしかに!私は彼氏にこんなふうに思ってもらいたいなー。ってか、今度彼氏連れてきて勉強させたい」

こうして、多くの女性たちが、交流館を訪れては、自らの恋と照らし合わせて思いを馳せていた。恵巳が仕掛けた企画は、大きな賑わいを見せていた。
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