拾ったワンコが王子を連れて来た

「真美?」

「ダメ!」

「真美ちゃ〜ん?」

久しぶりに会ったのだから、家族でゆっくり話したいだろうと、私は先に部屋へと戻ったのだが、
何故か、彼は直ぐに私の部屋へとやって来て、一緒にお風呂に入ろうと言う。

「ダメったらダメ!」

まだ、一緒にお風呂に入った事ないのに、旅館とは言え、彼の実家で一緒に入るなんて、出来ないと言うと、彼はアヒル口をして可愛さをアピールしてくる。

「折角の露天風呂だよ?」

「露天風呂は入るけど、一緒には入らない!
家に帰って来たの久しぶりなんでしょう?
お父さんと一緒に、もう少し話しでもしながら、お酒飲んで来たら?」

「ちぇっ! 仕方ない。
真美ちゃんの言う通り、親父と少し飲んで来るか…?
でも、絶対、起きて待っててよ?」

「はいはい…」

彼は寂しそうに、部屋を出て行った。

さぁ、初めての露天風呂!
一人で楽しんじゃうもんね!

部屋の電気を消して、露天風呂の灯篭の灯りだけを付けて岩風呂へと入る。

こんなの贅沢過ぎるよねー
部屋にこんな素敵な露天風呂が付いてるなんて?
それも岩風呂って…お掃除大変そう。
普通に泊まったら、一泊いくらするんだろう?
えっ!?
もしかして、宿泊代払えって言わないよね?
・・・・・いや、いくらなんでも…それは無いよね?
家族に迎えてくれたんだから?
あれ?
でも、家族に迎えてくれたなら、旅館の客室に泊まらせる?
ま、まさかね…
ないない。それはいくらなんでも、無いでしょ…

…どうであれ、今はこの幸せな時を楽しもう。

湯の中に浮かぶ月を両手で掬おうとした時、ガラガラと戸が開く音がした。
驚いて振り向くと、誰かが立っていた。
ぼんやり照らす灯篭の灯りに映された姿は、どう見ても女性の姿じゃない。

じゃだれ?
お客様が部屋を間違えた…?




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