拾ったワンコが王子を連れて来た
仕事も終わり仲居さん達が帰る中、稀一郎さんが呼んでると伝言を受け、私は奥へと向かった。
そこには、稀一郎さんだけじゃなく、希美子さんや女将さん、そして、まだご挨拶していなかった、この旅館の板長で、稀一郎さんのお父さんも居た。
「…はじまして、わたくし」
先程と同じ様に、廊下に座り挨拶をしようとした時、お父さんに、挨拶は良いから部屋に入りなさいと言われ、皆んなお腹空いてるだろうから、先ず食事をしようと言われた。
そして、旅館の仕事をしてると、家族揃って食事をする事は少ないと、お父さんは話してくれた。
以前彼からもそんな話を聞いた事がある。
今だって、夕飯と言うより夜食と言って良い時間だ。
「真美さんってゆうたかいね?」
お父さんからの問い掛けに、私は箸を置いた。
「はい」
「仲居の仕事はどうやったかや?
もてなしとやらは、教わったかや?」
お父さんの質問に、私は素直な気持ちを伝えた。
「おもてなしを教えて欲しいと、お願いしましたが、サービスは教わる事は出来ても、おもてなしは、教わるものでは無いと知りました。
ホテルの様にお客様全てに同様のサービスするのではなく、お客様それぞれに合った心のこもった待遇や接待をする事だと思います。
だから、一日二日一緒に仕事したところで、分かるわけなくて…
大変失礼な事を言ったと反省してます」
私の話を目を瞑って聞いていたお父さんは “ うん ” と頷き「合格」と言った。
え?
「真美、認めて貰った!」
稀一郎さんは “ やったぞ!” と言って私に抱きついてきた。
「え?」
「旅館は姉貴が継ぐ!
俺は今迄通り柊真の仕事を手伝う!」
え?なに?
なんの話?
彼は後で詳しく話すと言って、早く食べて部屋に戻ろうと言うと、これ美味いぞ、これも美味いから食べてみろと言って、あれもこれもと勧めてくれた。
料理は確かに美味しく、旅館の名物料理という治部煮も美味しいが、特に鯛の味噌漬けは絶品だった。
「鯛の味噌漬け気に入ったかいなぁ?」
「はい!稀一郎さんも作ってくれるんですけど、とてもお父様のこの味には程遠くて…あ!」
マズイ!
稀一郎さんに料理させてる事、バレちゃった。
「気にせんでも良かですよ?
昔からこん人は台所ばぁ、入る事好きやったから」と、お母さんは、気にしなくて良いと行ってくれる。
その後も和やかに、お父さんの作ってくれた食事を堪能させて貰った。
そこにはもう、板長や女将の顔は無く、私を家族に一員迎えてくれた、優しいお父さんとお母さんの顔になっていた。
私が小さい頃失った…温かい家族…
手に入れる事を諦めていた幸せ。
難なく、余所者の私を迎えてくれたことが嬉しくて、涙が溢れてくる。
「真美さん…どうしたかい?」
「すいません…嬉しくて…こんな温かいお料理食べたの久しぶりで…」
「これからは、いつでもきんさい?
ひとりでもよかけん?」
「…有り難うございます…」