拾ったワンコが王子を連れて来た
この女性が言うあの人とは、誰の事…?
あの人…?
私は生田さんの事かと、隣にいる生田さんの顔を見たが、彼は首を振る。
じゃ、誰の事?
「あの…どちらかのお宅とお間違いでは?」
『間違ってなんか無い!
ここ、幸一郎さんの家でしょ⁉︎』
隣にいる生田さんは、自分を指差して、
「俺、稀一郎 」と言った。
幸一郎は、私の父親だ。
「そんな人ここには居ません!
お帰りください!」
あの人が、ここへ帰って来るわけないじゃ無い!
もう、何年も帰って来てないのに…
私の包丁を握っていた手に、自然と力が入っていた。
生田さんは、それに気がついた様で、私から包丁を取り上げた。
(ドンドンドン!)
『開けろ!開けろって言ってるでしょ!?
別れた娘の所なんかに隠れて無いで、出て来なさいよ!?』
なんて女なの…
これじゃ、近所迷惑になる。
「近所迷惑です。静かにしてもらえますか?」
『だったら、開けなさいよ!』
「このままじゃ、何するか分からないぞ?
ドア開けて良いか?」と聞く生田さんに、私は仕方なく頷いた。
生田さんがドアを開けると、女は土足のまま家の中に入って来た。
「あの人は居ないわよ?
でも、納得いかないだろうから、どうぞ気がすむまで探すと良いわ?」
すると女は土足のまま部屋中を探し回り、父が居ないと判ると、私の前に泣き崩れた。
「あの人を返して…
家には、あの人の子供が待ってるの…
お願い…お願いだから、あの人を返して…」
「あなた良く言えるわね?
笑わせないでよ!
最初に、私から父を奪ったのはあなたでしょ!?」
「………」
「子供が待ってる?
そんな事私には関係ない!
子供が可哀想だと思うなら、良く考える事ね!
私は、もう何年もあの人には会ってない!
あの人の言う “ 愛してる ” は、上部だけの言葉。
あの人はそう言う人よ!
今頃、他の女の処にでも居るんじゃないの?
その女の処にも子供が居たりしてね?
あの人も、そんなに子供作ってどうするのかしらね?
今度、あなたの前に姿表す時は、きっと別れ話よ?」
「嘘っ… 嘘よ! そんな事許さない!」
「許さないも何も、あなたがして来た事でしょ?
悪いことをすると、いずれ自分にも返ってくるって言うでしょ?
あなたも諦めた方が良いわ?
私の母の様に?
あんな男を好きになったあなたが悪い!
あなたは自分の子供に、責任を果たすべきよ?」
「じゃ、私はどうなるの…?」
私は…?
子供じゃなくて…?
ここまで来て自分の心配なの⁉︎
呆れて言葉が出ない!
「この家に居ない事が分かったんだから、帰ってくれます?
土足で入られたおかげで、今から掃除しないといけないんで?」
女は項垂れ “ ごめんなさい ” と言って、帰っていった。