一筆恋々

【一月七日 手鞠より淡雪への手紙】


拝復
未だ不安定な欧州から、よくご無事でお戻りくださいました。
当家でも皆喜んでおります。

また、ご挨拶が遅れておりまして、申し訳ありません。
落ち着きましたら、両親と共に伺いたいと思います。

さて、ご質問に対するお返事ですが、これでいいも何も、はじめからわたしに選ぶ余地などございません。
すべては久里原さまとわたしの父が決めたことで、わたしはそれに従う以外にないのです。
淡雪さんもご同様のことと思います。

静寂さんのご様子も、わざわざお知らせいただかなくて結構です。
きっとお勉強で難しいことでもあってお悩みなのでしょう。
わたしにはどうして差し上げることもできませんが、淡雪さんがお心を砕いてくだされば、静寂さんはすぐ元気になられることと存じます。

本年も淡雪さんにとりまして、()い年となりますよう、お祈り申し上げます。
拝答


大正十年一月七日
春日井 手鞠
久里原 淡雪様


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