一筆恋々

【二月一日 手鞠より駒子への手紙】


突然傷つけるようなことを教えてごめんなさい。
嘘であったなら、とわたしも思いましたが、どう見ても藤枝さんが誠実な人と思えず、菜々子さんと相談して、駒子さんにお伝えすることにしたのです。

わたしも頭に血が上っていて、心配りが足りなかったと反省しています。
もう少しおだやかな方法があったかもしれません。

けれど、「別にどうでもいい」なんて、自暴自棄にならないでください。
駒子さんが言うように、家同士の都合で結婚して、旦那さんに別の恋人がいたという話は、掃いて捨てるほどございます。
駒子さんの方でも、藤枝さんに恋をしていないことも知っています。
だけど、藤枝さんと駒子さんでは全然違うのです。

藤枝さんの場合、写真の女性だけではありません。
菜々子さんが洋装の女性を見かけていますし、淡雪さんの情報ではどうやら他に幾人も女性の影があります。
たったひとり想う人がいる、というなら同情の余地もありますが、あの行いは人として不誠実です。
想う方ではないとしても、お相手は選ぶべきです。

英子爵に相談してみてください。
どうか幸せになることを諦めないでください。


大正十年二月一日
春日井 手鞠
英 駒子さま


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