一筆恋々

【二月九日 手鞠より菜々子への手紙】


英家に嫁しましたわたしの姉よりお手紙が届きまして、英子爵が駒子さんと藤枝さんの婚約の破談を決めたそうです。
また、駒子さんの縁談はもう少し落ち着いてから、卒業後に考えられるとのことでした。

駒子さんには、少しゆっくりと気持ちを落ち着ける時間が必要だと思うのです。
どのくらいの時間があれば、失した恋は癒えるのか、新しいご縁に馴染めるときが来るのか、わたしにもわかりませんが、駒子さんはきっとまだ忘れたくはないはずです。
菊田さんとの思い出も痛みも、それは駒子さんだけのもの。
いましばらく、その想いと一緒にいさせてあげたいのです。

菜々子さんもどうもありがとう。
悦美さんに鶯餅をご馳走する約束をしているので、菜々子さんも一緒に参りましょう。


大正十年二月九日
手鞠
菜々子さま


< 111 / 116 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop