一筆恋々

【三月十七日 手鞠より淡雪への手紙】


前略
先ほどは当家をご訪問くださり、ありがとうございました。
父も良い商談ができた、と喜んでおります。
その内容につきまして多々思うところもございますが、最大限のご協力と、淡雪さんの弟さんを思う気持ちに免じて、筆を控えたいと思います。

淡雪さんがいらっしゃる前に、静寂さんがいらしていたそうです。
わたしは不在にしておりましたが、家の者の話によりますと、ひどく慌てたご様子で、しかもずいぶんひどいお手紙を残して行かれました。

淡雪さん、静寂さんを焚きつけましたね?
駒子さんともいろいろやり取りされたそうではありませんか。
ずいぶんやり方が荒っぽくて、静寂さんと半分も同じ血が流れているなんて信じられません。

ですが、「静寂を幸せにせよ」というご下命は、たとえあの交換条件がなくとも成し遂げてみせます。

素直に感謝を述べるには並々ならぬ抵抗を感じますけれど、すべて淡雪さんの愛情と受け取りたいと思います。
ありがとうございました。

そして、今後ともよろしくお願いいたします。
かしこ


大正十年三月十七日
手鞠
お義兄さま

追伸
紅梅屋でのことは他言無用に願います。
特に静寂さんには絶対に内緒にしてくださいませ。
もちろんあれは不可抗力で、藤枝さんにはただ天罰が下っただけで、わたしに責のあることではございませんけれど。


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