一筆恋々

【九月十一日 手鞠より静寂への手紙】


謹啓
今朝ちよさんがご近所から茄子(ナス)をたくさんいただいてきました。
わたしは焼き茄子が大好きで、たっぷりの生姜と生醤油でいただきたかったのですが、まだ少し早い茄子だったみたいで、濃いめのお出汁でふっくりと煮ました。
焼き茄子はもう少し先の楽しみに取っておきます。

駒子さんですが、菊田さんからお返事があったそうです。
菊田さんがおっしゃるには、学校で静寂さんと行き合われたそうですね。
そのとき、菊田さんに改めてお礼を言ってくださったとか。
わたしの友人のことでありますのに、お気遣いいただいてありがとうございました。

菊田さんは、わたしも一目見て素敵な方だと思いましたが、やはり誠実で気性のやさしい方だったようで、駒子さんはおしあわせそうです。

今日はそんな駒子さんと一緒に、便箋と封筒を買いに行きました。
菊田さんに出すとなると駒子さんはなかなか気に入るものが見つからないようで、そのうち便箋を求めてまだ見ぬ秘境まで行ってしまいそうです。

わたしも友人に出すときは好きなものを自由に選ぶので、かわいらしい絵柄入りのものや花文様が多いけれど、静寂さんに出すための便箋はすっきりとした気持ちのよいものが目につきます。
お手紙とは、すでに便箋選びから始まっているのですね。

今回の便箋も気に入ってもらえるといいのですが。
敬白


大正九年九月十一日
春日井 手鞠
久里原 静寂様


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