一筆恋々

【九月二十七日 手鞠より静寂への手紙】


謹啓
力強く咲いていた花々も盛りを過ぎて、庭のいろ味もなくなって参りました。
けれどお隣の庭に金木犀があって、涼しくなってきた風に乗ってはなやかな香りが届きます。

今日は割烹(かっぽう)の時間にオムレツを作りました。
だし巻き玉子とは違い、巻くのではなくふんわりとまるめるようでした。
これはこれで難しいです。
似たようなお料理でも和食と洋食ではずいぶん違いますね。

静寂さんは洋食はお好きですか?
次はチキンライスを教わるのですが、何かお好きなお料理があれば、先生に聞いてみたいと思います。

菜々子さんの同席も認めてくださり、本当にありがとうございます。
ふたりともとても楽しみにしているようです。
もちろんわたしも。

それでは、十月三日午後二時に当家へいらしてくださいませ。
お待ちしております。
敬白


大正九年九月二十七日
春日井 手鞠
久里原 静寂様


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