一筆恋々

【十一月二十二日 手鞠より静寂への手紙】


謹啓
厳しい冬に向けて、木々のいろどりはなくなりましたが、芝も草も幹もすべてがやわらかな枯色で、そのあたたかみある景色は、いつまでも眺めていられるような気がします。

今日は突然いらしておどろきました。

いただいたあんパンはとても多かったので、家中のみんなで分けました。
ありがとうございました。

前回のお手紙に変なことを書いてしまい、出した後で後悔していたのです。
だけど、お会いしたかったのは本当なので、うれしかったです。
もちろん、あんパンを届けてくださっただけなのはわかっていますけど、それでもお顔が見られてうれしかったです。

「なんだ。元気じゃないか」と静寂さんはおっしゃいましたけど、まだ少し落ち込んでいました。
それなのに、たったあれだけの時間で、わたしはとても元気になれました。
静寂さんはどういう力の持ち主なのでしょう?

あまりに薄情で、駒子さんには申し訳ないくらいですが、誘っていただいたお芝居、とても楽しみにしています。
敬白


大正九年十一月二十二日
春日井 手鞠
久里原 静寂様


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