エリート同期は一途な独占欲を抑えきれない

「へぇ。年齢より少し若く見えるねぇ。あのアイドルは二十二歳らしいから、同年代っていえば同年代かぁ」

そう、自分の顎を触りながらつぶやいた小金井さんは、私を見る。
私の頭からつま先までを舐めるようにじろりと動いた瞳には、背中にぞくりとした気持ちの悪い感覚が這った。

「ダメだよー、しっかり順序守らなきゃ。彼氏にちゃんとお願いしないと。ほら、長い付き合いの彼氏がいるって話だったでしょ。桜井さんくらいの年齢の男なんて、軽くしか考えてないんだから、自分の身は自分で守らないと。痛い目を見るのは桜井さんなんだから」

余計なお世話でしかないセクハラ発言に、「ありがとうございます」と返す。
なんとか浮かべた笑顔が引きつっていなかった自信はない。

ちなみに、今現在私に彼氏はいない。大学一年からの付き合いだった元彼とは、一年ほど前に別れている。

小金井さんに恋人の有無を聞かれて〝いる〟と答えたすぐあとに別れたけれど、わざわざそれを言うのも面倒で流しているから、小金井さんのなかでだけ私たちの関係は続いていることになる。

正直どうでもいいのでよほどのことがない限りはこのままでいいと考えている。

月に一度必ず来店して、駅近辺のマンションを内見する小金井さんが、本気で部屋を探しているのかは不明だ。

一年も繰り返しているところだけ見ると、その可能性は低く、ただの暇つぶしか、話し相手欲しさだろうとは思うものの、それはこちらの一方的な考えでしかない。

小金井さんの希望であるなら、何度でも条件を満たす部屋を案内するのがこの仕事なのだと、だから頼むよ、と申し訳なさそうに笑みを崩した部長に言われたのはもう半年以上前の話だ。

その表情からは、部長も私と同じ意見なんだろうということが伝わってきたので、うなずくほかなかった。

そのため、小金井さんは毎月意気揚々と本店営業部の自動ドアをくぐってきて「桜井さんいる?」と指名までしてくるのだ。

それが、私のひとつ目の悩みだった。
そして、ふたつ目の悩みが――。

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