独占溺愛~クールな社長に求愛されています~
「えー……っと?」

 詩穂はつないだままの手から蓮斗の顔へと視線を動かした。

「人が多いから、はぐれないように」

 実際、人の流れに乗り切れず、蓮斗とはぐれそうになった。一瞬不安に襲われたが、彼がぐいっと手を引いて、彼の方に引き寄せてくれた。

「晩飯にはまだ少し早いし……展望台でも行くか?」

 人混みの中、詩穂が顔を上げるとすぐ近くに蓮斗の顔があった。蓮斗が、空中からの絶景が有名な近未来的な高層ビルの名前を挙げる。

「まるでデートだね」
「『お互い楽しい方がいい』んだろ?」

 蓮斗がニッと笑った。

 混雑したエレベーターに押し込まれ、蓮斗が詩穂の手を離した。それでホッとしたのも束の間、彼は詩穂をかばうように肩を抱く。さっきよりも距離が縮まって、詩穂の鼓動が高くなった。コートを着ているから蓮斗には気づかれないと思うが、詩穂の頭の中には自分の鼓動が大きく響いている。

(須藤くんって……やっぱりスキンシップが過剰……)

 一階に着いて扉が開き、詩穂はホッと息を吐いて蓮斗から離れた。外に出たときにはもう日が傾いていて、空気がひんやりしていて心地いい。

「寒くない?」

 蓮斗に訊かれて、詩穂は両手をコートのポケットに突っ込んだ。
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