独占溺愛~クールな社長に求愛されています~
「見えないな」

 隣で目をこらしていた蓮斗がつぶやいた。

「残念~」

 周囲で同じように景色を見ているカップルは、肩を寄せ合ったり、顔を近づけてなにかささやき合ったりしている。

 ふと右側を見たら、蓮斗も詩穂を見ていた。目が合った彼の瞳は、夜の空を映したようにいつもより深い色で、街の明かりが神秘的に浮かんで見える。

(キレイ……)

 引き込まれてしまいそうだ。

「小牧?」

 蓮斗が小さく首を傾げ、詩穂は我に返った。うっかり見入ってしまったことが恥ずかしく、詩穂は手すりから体を離した。

「せっかくだし、ぐるっと回ろうか?」
「そうだな」

 詩穂に続いて蓮斗が歩き出した。

 夜景が楽しめる時間だけあって、家族連れよりもカップルの方が多い。前を歩く男性が女性の肩をしっかりと抱いていて、いつキスしてもおかしくないくらい甘いムードだ。

 そう思っていたら、突然立ち止まって男性が女性に顔を近づけた。

(ひえー、気まずい)

 ふたりから目を逸らしたとき、蓮斗の手がそっと詩穂の肩に触れた。彼に促され、カップルを迂回して回廊を進む。蓮斗の手はまだ詩穂の肩にかかったままだ。その手の感触に、彼の存在を意識してしまう。
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