私が恋を知る頃に
んーっと伸びをしながら医局に入る。

「おつかれー」

そう声をかけられ振り向くと休憩スペースから手を振っている清水先生がいた。

「お疲れ様です」

何かあったのかと駆け足で清水先生の所へ向かう。

「コーヒー入れたからさ、瀬川くんも飲むかなって。」

「本当ですか、ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて。」

そう言いつつ清水先生の向かいのソファに腰をかける。

「穂海ちゃんの所行ってたの?様子どう?今日は、作業療法試して見たんだっけ。」

「はい、午前中折り紙をやってもらってさっき見に行ったんですけど、穂海、いつもより力の抜けた表情してて、上手くいったみたいです。」

「そっかそっか、よかった。このまま精神状態が安定していくといいね。…そういえば、精神科との面談の日程どうなった?やっぱり、あのことがあった以上面談はせざるを得ないよね。」

清水先生の言葉に痛いところを突かれる。

そうなんだよな、面談はしなきゃいけないんだろうけど、タイミングがな…

「……まだ悩んでる感じ?」

「…はい。まだ、穂海も目が覚めてから日が浅いですし、どのタイミングですれば穂海の心の負担を軽減できるか、まだ考えあぐねていて……」

「精神科の方はなんて?」

「……兄貴と園田先生とは相談していて、できるだけ近いうちに…とは言っているんですが、穂海の調子がいい時がまだ掴めないのと、先生方とのスケジュールもあまり合わなくて……」

相談した時の兄貴と園田先生の驚き悲しそうな苦い表情を思い出す。

「……んー、なるほどね。でも、今は一時的に穂海ちゃんの状態は良くても、根本のところがまだ解決していないからね、やっぱり面談は早い方がいいんじゃないかな。もしかしたら、面談で穂海ちゃんはさらに悩んだりしてしまうかもしれないけど、そこの心のケアも含めて入院中に解決しちゃいたいでしょ?そしたら、やっぱり早い方がいいよ。」

「……はい。後でもう一度精神科と話を合わせてきます。」

「うん。頼んだ。」

清水先生はそう言うとソファを立ち上がって後ろのキッチンで入れたコーヒーを出してくれた。

「難しい問題だけどさ、これ解決したら穂海ちゃんもだいぶ楽になるだろうから。あともうひと踏ん張り、頼んだよ。」

「はい、俺の出せる最善を尽くします。」
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