私が恋を知る頃に
「失礼します。」

警察の人と先生がなにか喋ってる。

息をするのに必死で内容までは聞こえない。

先生、先生…

そう思っていると、ギュッと手を握られた。

大きくて温かい手。

顔を上げると、碧琉先生がいた。

「ちゃんと呼んでくれて偉かったね、よしよし、大丈夫だから一緒に落ち着こうな。」

「せ、んせっ…エッグわた、し……」

「うんうん。大丈夫だよ。苦しいから、息することに集中しよ?今は無理に話さなくていいから。」

ゆったりとしたリズムで背中を撫でられる。

碧琉先生のリズムに合わせて息をすると、気持ちも呼吸も落ち着いていく。

「よしよし、ちゃんと呼吸できてるよ、その調子。」

「ヒック……はぁ…………はぁ…」

「偉いね、上手だよ。」

碧琉先生の暖かい言葉が、じんわりと私の心を温めてくれる。

もう大丈夫

ここに居ていいんだよ

偉いね

上手だね

今までかけられたことのなかった肯定の言葉たちが温かくて心地よい。

ふわふわとした温かい気持ちに包まれていると、いつの間にか普通に息ができるようになっていた。
< 85 / 279 >

この作品をシェア

pagetop