俺様上司が甘すぎるケモノに豹変!?~愛の巣から抜け出せません~
(あーあ、行っちゃった……)
お店の奥に進んでいった彼らを見届けてから、私は振り返って自分の席へと座り直した。すると。
「……ど、どうかしましたか?」
「は? 何がだよ?」
向かいの席の周防さんは頬杖をつき、ものすごーく不機嫌そうにそっぽを向いていた。
小宮山さんが去ったので営業スマイルをやめたのはわかるのだけれど……なんか明らかにさっきより機嫌が悪くなっているような。
「あの、お疲れでしたらそろそろお開きにしましょうか?」
「疲れてねえよ。いいからお前はもっと食って飲め。そんで太って本物の大福になっちまえ」
こちらが気を遣ったというのに、なんという言い草だろうか。
何が気に食わないのか知らないけれど、八つ当たりはやめてほしい。
不機嫌オーラ全開の周防さんを前に、当然食事など喉を通るはずもなく。早く帰りたいなぁと思いながら私はチビチビとグラスのヴァイツェンを飲みながら視線をさまよわせていた。
「……小宮山のどこがいいんだよ」
「え?」
ふいに声をかけられ、私は窓の外に向けていた視線を慌てて周防さんに戻す。
彼は相変わらず不機嫌そうだけれど、怒っているというよりはどことなく寂しそうな顔をしていた。