俺様上司が甘すぎるケモノに豹変!?~愛の巣から抜け出せません~
「よかったぁ、生きてる……」
心底ホッとして胸を撫でおろすと、向かいの席で和花ちゃんが「なるほど」と何かに納得したように頷いていた。
「ちょっとだけ惚れ薬のルールが分かったね。薬は神様的な視点じゃなく、あくまで周防さんの気持ちに反応するわけだ。ってよく考えたら当たり前か」
確かに周防さんのあずかり知らぬところでまで薬が反応するなんて超常現象すぎてあり得ない。けれど、そもそも惚れ薬自体がオカルトなのだから油断は出来ないのだ。
「とりあえずはよかったね。でもこれからどうするの? 周防さんって勘よさそうだから、こっそり小宮山さんと二股かけるのは難しいと思うよ」
フォークに刺したヴァイスブルストをパクリと口に運んでから言った和花ちゃんの言葉に、私は「ふ、二股なんてしないよ!」と全力で否定する。
けれども「でも小宮山さんの相談に乗るんでしょ? その後誘われたらどうするの?」と畳みかけられ、私は思わず言葉を詰まらせた。
「……小宮山さんが私なんか相手にするわけないじゃん。あり得ないよ」
「そうかな、『相談に乗ってほしい』なんてきっかけを作るための常套句だと思うけど」
自分でも自分の考えがまとまらなくて、頭の中がゴチャゴチャしてしまった。
……今でも小宮山さんに憧れる気持ちは健在だ。だってあんな素敵な人そうそういない。優しくて穏やかでカッコよくて、彼の恋人になれたら最高だろうなと思う。
でも――その気持ちを周防さんの命と天秤にかけたとき、答えは迷う間もなく一瞬で出る。
恋より人命が大事なのは言うまでもない。けれどそれ以上に私は……周防さんを失いたくないと思っていることに気がついた。