転生王女のまったりのんびり!?異世界レシピ ~次期皇帝と婚約なんて聞いてません!~
 ヴィオラはたしかにまだ、子供だ。けれど、今年の誕生日を迎えれば十三歳。

 リヒャルトとの関係だって、ずっと今のままではいられないこともわかっている。

「タケルがあちらに走っていったぞ。ヴィオラはまだここにいたんだな」

「廊下は走っちゃいけませんってタケル様に言わないと!」

 向こう側から歩いてきたリヒャルトは、ヴィオラを待っていてくれるらしい。立ち止まっている彼の方へ小走りで近寄る。

「一応言ったんだが、聞いてくれていないようだ」

 ちょっと困った顔で笑うリヒャルト。そんな彼だから、ヴィオラは思うのだ。

(これ以上、……リヒャルト様のことを好きにならないのはきっと無理)

 手が届かないとわかっていても。分不相応だとわかっていても。

 リヒャルトへの気持ちを、これ以上押し込めておくことはできないと気づいてしまった。

 もちろん、今すぐ進展があるとは思っていないし、そうするつもりもない。

 けれど、あと三年、もしかしたら五年。ヴィオラが、彼の隣に立つのにふさわしい“何か”を身につけることができたなら。

 その時には、気持ちを伝えることくらいは許されるかもしれない。

「私からも言っておきます。タケル様も、一緒にマナーの授業を受けたらいいんですよ!」

 子供っぽく見えるのはわかっていて、わざとむっと膨れた表情を作る。

 子供のままでいられる時間は、もう長くはない。だからこそ、もう少しだけ今のままでいよう。
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