転生王女のまったりのんびり!?異世界レシピ ~次期皇帝と婚約なんて聞いてません!~
「おいしい」

「それはようございました。そうそう、このマドレーヌは、厨房からの差し入れですよ」

 ニイファがにこにことしているから、ヴィオラも嬉しくなる。

 こんな風に、ふたりでのんびりする時間が取れるなんて、イローウェン王国にいた頃は考えたこともなかった。

(この国で、こんなに平和に過ごせるなんて)

 ヴィオラがこの国に来た理由には、戦争を起こさないための人質のような意味もあったはずなのだが、継母に命を狙われていた頃と比較すれば、今の方がよほど安全だ。

(……お父様は、見て見ぬふりだったし、ね)

 紅茶のカップを見つめるヴィオラの目が、一瞬だけ暗くなる。

 ヴィオラの父は、イローウェン王国の国王だ。そして、ヴィオラは王妃の娘であったけれど、父と親子らしい会話をした記憶なんてほとんどない。

 父と母が結婚する前から父の愛人だったザーラは、母が亡くなった後、早々に王妃の座についた。

 今では異母兄が王太子、ヴィオラが王位継承権第二位であるはずなのに、人質として差し出されたのは王位継承権第三位の異母妹ではなく、ヴィオラだった。

(この国に来てからも、いろいろあったけど……結果としては、その方がよかったかも)

 今、ヴィオラが滞在しているのは、オストヴァルト帝国の皇宮にある満月宮だ。

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