『またね。』
「…誰ですか?」
輝の明らかに不機嫌そうな声。
メガネの奥の目が険しい。
いつもみたいな温かさがない。
…怖い。
輝も、こんなに険しい顔するんだ…
「…すみません、夜かけ直します。」
輝は心配そうにしていた私を見て電話を切る。
「…ごめんね、鈴。」
「なにが?」
「ちょっと怖かったかな。」
「うん。」
あんなに怖い顔してた輝を見るのは初めてだったから。
ちょっとどころかかなりびっくりした。
「…電話…」
「ん?ああ、知り合いだよ。
僕のことなんか忘れてると思ってたけど、覚えてたみたいだ。」
今日の輝はよく話す。
…怒ってるのかな…
電話の相手に…
「…そっか…」
「もう大丈夫だよ。
そんな顔しないで。」
輝は私の頭を優しく撫でる。
「あのね!輝!」
「ん?」
「私、手術の後も覚えてるから…輝のこと、ちゃんと…」
忘れたくないもん。
大好きな輝のこと。
「…うん。僕も。」
輝は筆を置いて絵を見つめる。
「…鈴。」
「うん?」
「この絵は、鈴の手術が終わってから見てね。」
…え?
私が、ひとりでみるの?
輝は一緒に見てくれないの…?
「ほら、僕は自分で見るのは恥ずかしいから。」
あ、それもそうか。
…輝がいなくなっちゃうのかと思っちゃったよ…
「僕は、いつも鈴のそばに居るよ。
手術の後も。」
輝の優しい顔。
いつだって輝は優しい。
私に優しい顔しか見せない。
本当ならもっと表情があるはずなのに…
怒った顔も悲しむ顔もあるはずなのに。
「…約束、果たしてくれる?」
「それはどうだろう。」
絵の具を出しながら輝は私を見る。
「…鈴が忘れなかったら果たせるよ。」
「忘れないよ!!」
なんで輝が居ないような言い方するの?
「忘れないから…そばにいて…」
輝が居ないなんて、そんなの嫌だよ…
「…うん。」
優しく微笑んだ輝は私の頭を撫でる。
「…じゃあ、行こうか。」
輝が私の分のカバンも持って、美術室から出ていく。
私はただ、輝の後ろを歩いていくしか無かった。
【佐倉鈴side END】

【卯月輝side】
…放課後。
僕はいつも通り鈴を後ろに乗せて家に向かっていた。
「ここ!ここに自転車停めて!」
鈴が後ろからぴょんと降りて止めてもいい場所に連れてってくれる。
…心臓に悪いからその降り方辞めて。
「ここでいいの?」
「うん!」
僕は言われた通り、ガレージの中に停めさせてもらった。
「ただいまー!」
「おかえり。鈴。」
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