すれ違いお見合い結婚~相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~
「制服……」

「制服?」

ポツリと呟かれた言葉を藍里は復唱した。
智大が言わんとしていることが全く分からなかった。

「……吉嶺の制服姿に藍里が惚れないか、心配になった」

「惚れ……!」

何て事を言うのだこの人は!と藍里はあらんばかりに目を見開くと智大は顔を覆っていた手を次は頭に持っていき、無造作に掻き乱した。

そんな珍しい仕草をする智大を見て藍里は、もしかして……。と一つの事に思い至った。

昔、警察が格好良いと圭介に言った藍里の言葉で警察になったと言う智大が、警察の制服を着用した吉嶺を見て藍里が好きになってしまうのでは危惧したのではないかと。
特殊班に所属され、一般の警察が着る服と違う制服を着ている智大よりも好きになってしまうのではないかと、検討違いな事を不安に思っていることを。

ーー私だけじゃなくて、智君も不安に思ったりするんだ……。

それに気付いただけで藍里にさっきまでなかった心の余裕が生まれ、未だに掴まれたままの手はそのままに、反対の手を伸ばすと乱れてしまった智大の頭に指先だけでそっと触れた。

「私、制服だけで誰かを好きにならないよ?」

「……知ってる」

「誰かを好きになるにしても私、男性恐怖症だから無理だよ」

智大は一瞬、傷付いたような、見ているこっちが切なくなるような瞳をして目を伏せた。
あきらかに誤解されているであろうその言葉の深い意味を正確に伝えようと、藍里は智大の頭を撫でながら懸命に口を動かした。
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