生簀の恋は青い空を知っているか。
人生で一度も浴衣とか、着たことないな。まず持ってない。
友人と夏祭りに行ったことはあっても、浴衣を着たいとは思わなかった。
ふと、想像する。浴衣を着た自分と、その少し前を歩く浅黄さん。
まあ可愛いとか綺麗だとか絶対言わないだろうな。浅黄さんってわたしに基本的に興味ないし、あれば良い抱き枕くらいに思ってるんだろう。
最寄り駅について改札を出る。確かに来た方から花火の音が聞こえた。
家の方へ少し歩いていくと、隣にすっと車が停まる。
見たことのあるその車。
「松葉さん、こんばんは」
左ハンドル。最中社長の運転手の菊池さん。