生簀の恋は青い空を知っているか。

人生で一度も浴衣とか、着たことないな。まず持ってない。
友人と夏祭りに行ったことはあっても、浴衣を着たいとは思わなかった。

ふと、想像する。浴衣を着た自分と、その少し前を歩く浅黄さん。

まあ可愛いとか綺麗だとか絶対言わないだろうな。浅黄さんってわたしに基本的に興味ないし、あれば良い抱き枕くらいに思ってるんだろう。

最寄り駅について改札を出る。確かに来た方から花火の音が聞こえた。
家の方へ少し歩いていくと、隣にすっと車が停まる。
見たことのあるその車。

「松葉さん、こんばんは」

左ハンドル。最中社長の運転手の菊池さん。

< 183 / 331 >

この作品をシェア

pagetop