生簀の恋は青い空を知っているか。

明らかにキプリナスの方が規模が大きいからだ。勿論柴舟はそのピラミッドの端に引っかかる程度のもの。

わたしの言葉を聞いて、菊池さんが前を向きながらぽんと口を開く。

「あ、それなら知ってるんですね。星奈さんと浅黄さんが付き合ってたこと」

音が出るなら、パチクリだ。
何度かわたしはパチクリと瞬きをした。心臓は反対に止まっていたように思う。

「え」
「え?」
「あ、ここで大丈夫です。ありがとうございました」
「あ、ええ、はい」

家の近くでおろしてもらう。
凍った心臓が、生温かい外気に晒されて溶ける、はずもなかった。

< 186 / 331 >

この作品をシェア

pagetop