生簀の恋は青い空を知っているか。

菊池さんに再度お礼を言って、マンションに帰る。もうわたしの部屋は引き払ってしまったから、わたしの帰る場所はここにしかない。

エレベーターに乗って部屋の階まで行く。
玄関を開けると、明かりがついていた。珍しいことだった。

ただいま、と小さく言って、洗面所で手を洗う。リビングには行かずに自分の部屋に籠もった。

いつもやっていることなので、反射的にテレビの電源を点ける。休日の夜のバラエティー番組がやっていた。

目から鱗が落ちてきた。
嘘だ、落ちてきたのは涙だった。

金魚だって目から鱗を出すことなんて出来ないだろう。

< 187 / 331 >

この作品をシェア

pagetop