生簀の恋は青い空を知っているか。




「――松葉」

呼ばれてはっと我に返る。いつの間にか駐車場にいた。

マンションの地下だ。浅黄さんがシートベルトを外してこちらを向いている。
わたしも無意識にシートベルトを外した。

「すみません、ぼーっとしてました」
「疲れたか?」
「いえ、そんな」

はは、と笑ってみせる。みせたつもりが、上体を動かした瞬間に、目から涙がぼろりと落ちた。

「な」

浅黄さんが声を出した。何の「な」なのかは分からないけれど、わたしにも何の涙なのか分からなかった。

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