生簀の恋は青い空を知っているか。

この人の信頼のおけるところは、こういうところだ。誰が相手でも曲げることはない。
それは仕事なのだろうけれど。

「夏に結婚しまして……」
「そうなんですね。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「最中浅黄と言います」

浅黄さんが頭を下げる。それからやっと看護師さんの警戒心が解かれた。

「こんにちは」
「これから、来ることがあるかもしれないです。よろしくお願いします」

わたしも頭を下げる。看護師さんがにこりと笑った。

浅黄さんを連れて奥へと入っていく。
しんとしている廊下。誰の気配も感じられない。

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