生簀の恋は青い空を知っているか。

名札の入っていない病室の扉を開ける。

ピ、ピ、と無機質な電子音。
管に繋がれた身体。

「お兄ちゃん、浅黄さん連れてきた」

その腕の内側に触れる。浅黄さんが入り口近くで足を止めていたのには気づいていた。

「浅黄さん」

その姿に振り向く。浅黄さんがぼんやりとお兄ちゃんを見ていた。

「柴舟秋水、わたしの兄です」

自分で自己紹介も、お辞儀をすることもできない兄を。

少し間があって、何かを決心したように浅黄さんがこちらに近寄る。お兄ちゃんの手にそっと触れる。

先ほどと同じように自己紹介をしてくれた。

< 253 / 331 >

この作品をシェア

pagetop