生簀の恋は青い空を知っているか。
名札の入っていない病室の扉を開ける。
ピ、ピ、と無機質な電子音。
管に繋がれた身体。
「お兄ちゃん、浅黄さん連れてきた」
その腕の内側に触れる。浅黄さんが入り口近くで足を止めていたのには気づいていた。
「浅黄さん」
その姿に振り向く。浅黄さんがぼんやりとお兄ちゃんを見ていた。
「柴舟秋水、わたしの兄です」
自分で自己紹介も、お辞儀をすることもできない兄を。
少し間があって、何かを決心したように浅黄さんがこちらに近寄る。お兄ちゃんの手にそっと触れる。
先ほどと同じように自己紹介をしてくれた。