生簀の恋は青い空を知っているか。

ちゃぷちゃぷと波紋が広がる。

後ろから様々な模様の鯉が泳いでは抜いていく。辺りは夜のように真っ暗で、先は見えない。
誰もいない。どこへ向かってるの。

ふと、青っぽい鱗に背びれが赤い鯉が少し後ろをすいすいと泳いでいるのに気付いた。

わたしを待ってくれているのだろうか。

お兄ちゃん、と何故か思った。
そうだ、わたしはお兄ちゃんと鯉を見に来たんだった。

あれ、なんでお兄ちゃんいないんだろう。
餌をあげると言ってたんだっけ。

いつの間にか水面が太腿まで上がっていた。

足が動かしにくい。お兄ちゃん、どこにいるの。

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