生簀の恋は青い空を知っているか。



ハッと気付くと、座り込んでいた。
ゆらりと揺れる水面が視界に入って、すぐ傍を大きな赤い身体と背びれに黒い模様のある鯉が泳いでいく。

驚いて立ち上がる。膝丈までの大きな生け簀に使っていた。いや、どこに陸があるのだろう。

何かを忘れている気がする。
なんだっけ、思考がまとまらなくて思い出せない。

後ろから鯉が何匹も泳いでいく。どこへ向かうのだろう。

いつかお兄ちゃんと一緒に見た鯉を思い浮かべる。鯉は頭が良い。餌を持っている人の影が見えると、水面を争う。

誰か居るのだろうか。
わたしも足を進める。

< 299 / 331 >

この作品をシェア

pagetop