生簀の恋は青い空を知っているか。

浅黄色の鱗。
浅黄さんの名前は鯉の名前からだと聞いた。

「違うだろ」

浅黄さんは少しも躊躇わずに、断言する。

「ですよね」
「俺は鯉じゃない」
「知ってます」
「松葉っていう鯉の種類もある」

え、と声が漏れる。

それは初耳だ。確かに秋生まれでもないのに、なんで松が入っているのかと思っていたけれど。

「鼎と西仲島も来てたぞ」
「……はい」
「君、西仲島と電話してる途中に撥ねられたんだろ」

そうだったか、記憶がはっきりしない。
でも確か、お兄ちゃんのところに行こうとしていた。

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