生簀の恋は青い空を知っているか。

ん、と差し出された左手を掴んだ。薬指にそっと指輪を入れる。
ちゃんと嵌って安心した。

その手をじっと見ていると、浅黄さんも同じようにして見ていた。

「似合う?」

得意げに聞いてくるので、頷いて返す。わたしの方を見て、浅黄さんがふっと笑った。

ぐっと背中を抱き寄せられて、唇が重なる。
少しで離れて、顔を見上げる。

「今日行くのやめるか」

そう言って覆い被さってくるのに抵抗して、ソファーから抜け出す。

部屋を出てエレベーターに乗ると、浅黄さんが左手をじっと見ていた。
それを盗み見ることが出来た。

< 315 / 331 >

この作品をシェア

pagetop