生簀の恋は青い空を知っているか。

尋ねたのは自信がないからだ。女は少し考えた顔をした後、首を傾げた。

「翼がなくても飛べるから」

答えがそれ。

「泳げて飛べたら怖いものなしです」
「怖いものないのは強いな」
「煙草、もう良いんですか」

携帯灰皿で、火を消した。君が怒ってたんだろ、と言おうと思って辞めた。

ぱしゃん、と鯉が水面を叩く。

狭い世界で生きてきた。これからもそれは変わらない。
生け簀の鯉は、自分のことなのか、それとも女のことか。

静かになった。ふと女の方を見ると、すやすやと眠っていた。

警戒心のない寝顔が、なんだか笑えた。











生け簀の鯉は青い空を知っているか。 END.
20200329

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