花時の贈り物
采花が好き。瀬川くんが好き。ふたりとも大事なことにはかわりない。
けれど、誰にも瀬川くんを渡したくない。采花にさえも、嫉妬が芽生え始めていた。
このままではダメだ。わかっているのに気づいてしまった想いは止められなかった。
「あ、そうだ。ハチマキのさ、裏側に好きな人の名前を書くと上手くいくって話があるんだって」
ようやくハチマキを縫い終えたところで、瀬川くんがクラスの女子たちから聞いたという話をしだした。
「縫う前に書いておくらしいよ。案外やってる人多いらしいけど、もしかして采花も書いてたりして。想像つかねーけど」
上手く笑ってかわせなかった。
采花と瀬川くんが最近特にいい感じだから体育祭で付き合い出すんじゃないかとクラスの女子たちが話していたのを聞いたばかりだった。
「……瀬川くんは書いたことあるの?」
答えなんて予想がついていた。瀬川くんはそういうのを信じていない。
それなのに咄嗟に聞いてしまった。
思っていた通り、「書いたことないよ」とあっさりと返されたけれど、少しほっとしてしまう。そして、采花はどうなのだろうと考える。
采花は誰かの名前を書いたのだろうか。私たちはお互いの恋愛の話はほとんどしたことがない。けれど、采花が本当は瀬川くんが好きで私に言い出せないのだとしたら。
私は一気に焦りを募らせていく。
「悠理は書いた?」
「私は……書いてない、けど」
怖い。伝えたら壊れてしまうかもしれない。三人のあの空間にはもういられなくなる。
それでも、采花と瀬川くんが付き合いだしたら三人の空間は崩れる。私はきっと傍で笑えなくなってしまう。
「……もしかして好きなやついる?」
私の反応に察してしまった様子の瀬川くんは少し驚いていた。
瀬川くんとも恋愛の話をしたことがなかったから、私に好きな人がいるとは思いもしていなかったのだろう。