花時の贈り物
「いるよ」
「え、まじで。知らなかった。……誰? 同じクラス?」
私と瀬川くんだけしかいない放課後の教室。苦労して出来上がったハチマキを握りしめて、視線を上げる。
柔らかそうな黒髪に切れ長の目。白いワイシャツの胸ポケットから出ているのは私が誕生日にあげた青いストラップ。
気づいたら唇が動いていた。
「目の前」
たった一言。想いを明確な言葉にしなくても、瀬川くんには伝わっただろう。
目をまん丸く見開いて硬直している瀬川くんの前から立ち上がり、ハチマキをカバンの中に押し入れた。そして逃げるように教室を出る。
ドアのところに隠れるように立っていた人物に気づいて、息をのんだ。
酷く傷ついた表情で、私を見つめているのは采花だった。
体育祭実行委員のミーティングがこんなに早く終わるとは思っていなかった。聞かれてしまったことに後悔と焦りがじわじわとせり上がってくるけれど、なにも言えなかった。
嫌われたかもしれない。采花が瀬川くんのことを好きかもしれないと思っていたのに止められなかった。
私は采花からも逃げるように廊下を駆け出した。
もう戻れない。取り返しのつかないことをした。そう思いながらも、自分の感情をどう扱えばいいのかわからない。
好きだけど友達も大事で、壊したいわけではなかった。
でも諦めたくもなかった。
自分のことばかり考えた狡い恋心に気持ちが押しつぶされそうで、その日はなかなか眠れなかった。