クールな専務は凄腕パティシエールを陥落する
MCの紹介のあと、審査員の前に現れたのは、シュークリームを使った美しいクロカンブッシュと色とりどりのマカロンタワー。

クロカンブッシュとマカロンタワーは色分けされ、三つずつ作られている。

クロカンブッシュとは、小さなシュークリームを三角垂の形に配置したお菓子のタワー。

そして皿の下には、宝石の様に輝く幾種類ものショコラ。

それらは見た目にも美しく、繊細で見事な出来映えだった。

『それでは氷山さん、このお菓子を捧げたい相手と、お菓子に込められた想いを教えてください』

MCがマイクを向けると、愛菓はいつもの無表情にうっすらと笑みを浮かべて言葉を紡いだ。

「これは、私のスイーツに対する想いを解放させてくれた恩人に対する感謝の想いと、祝福を込めたウエディングケーキです」

クロカンブッシュもマカロンタワーも、その愛らしさから、ウエディングケーキとしてのニーズも高い。

「私の恩人は、甘いものが苦手。だから、中央のタワーはそういった方々が満足できるようなテイストに仕上げました」

『なるほど。大人のテイストを意識しているのですね。それでは、残りの二つのタワーは?』

MCの興味津々の質問にも、愛菓は淡々と答える。

『結婚式には様々な背景を持つゲストが訪れる。だからこそ、来賓の皆様には全員満足して帰ってほしい。そう思って、左が卵・小麦・牛乳のアレルゲンフリー、右はアレルギーも甘いものが嫌いでもないゲスト用のタワーにしています」

もちろん、クロカンブッシュだけでなく、マカロンタワーにも同じことがいえる。

ショコラはカカオやミルクの使用を調整して、甘さの段階を変えて配置した。

もちろんアレルゲンフリーの食材は、製造工程を別にするべくテーブルとオーブンを変えた。

三つのタワーは高さと彩りを変えているため、三つが揃うと一枚の絵のようになっている。

新郎新婦がケーキ入刀する甘いものが苦手な主役用のタワーはひときわ高く、食用の花びらが螺旋状に配色されて美しかった。

「私の大切な方のウエディングセレモニーでは、訪れた皆にも幸せをお裾分けして欲しい。そうすることで、恩人も幸せを感じることができるはず。そんな思いを込めて、このウエディングスイーツを作りました」

愛菓な言葉に、会場から拍手が起こる。

しかし、問題の味こそが最終的にはものを言うのだ。

勝敗は、テイスティングに持ち越された。



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