クールな専務は凄腕パティシエールを陥落する
「さすが愛菓さんです!あのマサキヨシザキに圧勝するなんて。まあ、あのクロカンブッシュとマカロンタワーとショコラで負けるとは思いませんでしたけど」

゛favori crème pâtissière゛

に戻ってきた愛菓と白人、阿佐美は、早速、今日の夕べに開催される予定の祝賀パーティーに向けて、クロカンブッシュとマカロンタワーの製作に励んでいた。

1日に2回も、和生とアリスのためのウエディングスイーツを作るはめになるなんて、愛菓は内心苦笑しかない。

「手伝ってもらってごめん。同じものを3セット作りたいから」

参加者は60人弱とスタッフから情報を得た。

今日はきっと、和生とアリスの婚約発表も行われるに違いない。

それに合わせて、参加者全員にも幸せを分けあってもらいたい。

和生に想いを寄せる愛菓にとって、このパーティーは苦痛でしかないが、感情を表さない鉄火面でいることは得意だ。

今夜一晩ぐらいは、感情を隠すことぐらい何てことはない。

「愛菓、優勝したのに葬式みたいだな」

思春期から愛菓を慕う白人は、無表情な愛菓の感情の機微に敏感だ。

「マスコミや周囲がうるさくなるだろうなーって憂鬱なだけ」

スイーツコンテストで優勝する度に、取材や冷やかしに愛菓が頭を痛めていたことを知る白人は、すんなりとそれを信じた。

「樫原専務が守ってくれるだろ?俺もいるから心配するな」

頬を赤くしながら、白人がスイーツ作りの手を休めずに呟くのが聞こえた。

いつも励ましてくれる白人。

白人と阿佐美がいれば、この゛favori crème pâtissière゛も安泰だろう。

愛菓は二人に、愛菓がまとめてきたスイーツレシピ集を残していくつもりだ。

愛菓がいると、誰かの幸せの足枷になる。

そんな思いがグルグルと頭を駆け巡っていた。

美佳に続いて、アリスも不幸にする可能性があるなんて、愛菓には耐えられない。

迫り来るパーティー時刻を前に、大好きなスイーツ作りですら苦痛に思える愛菓だった。

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